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イベントレポート|人生を豊かにする [働く場所 ] [働き方]ーこれからのワークスタイルを語ろう

2024年7月24日、つくばまちなかデザイン株式会社は、茨城県つくば市にある活動拠点「co-en」のリニューアルを記念して、イベント「人生を豊かにする [働く場所 ] [働き方]ーこれからのワークスタイルを語ろう」を開催しました。

前半は各ゲストのプレゼンテーション、後半はトークセッションという2部構成で進行。ゲストに山下 正太郎氏(WORKSIGHT 編集長/コクヨ ヨコク研究所・ワークスタイル研究所 所長)、岡村 英司氏(三井不動産株式会社 ビルディング本部 ワークスタイル推進部ワークスタイルデザイングループ グループ長)、安里 喬泰郎氏(株式会社ATOMica 執行役員CPO)の3名を迎え、ワークスタイルやワークスペースの最先端の状況、先端領域で実際に取り組んでいる事例の紹介など、これからの働く環境・働き方について、「人生を豊かにする」をキーワードにそれぞれの視点から語り合いました。

本記事では、プレゼンテーションとトークセッションの様子を抜粋してお届けします。ぜひご一読ください。

会場:co-en(コーエン)Beer&Cafe Engi

co-enとは、つくばを拠点に成長する企業や活動する人々、多様な働き方を応援する交流拠点として、2022年5月にオープンした施設です。英語で共同の意味を持つ「Co-」と、市民間の共創をサポートする場にしたいという願いを込めて「縁」=「en」を組み合わせ、「co-en」と名づけられました。「コーエン」という響きには、公園のように気軽に集える場という意味も込められています。

多様な働き方や活動をサポートする「ワークスペース」、地域で取れた食材を使った料理や世界・日本中のお酒を味わえ、子どもから大人まで一緒に楽しめる「カフェ&バー」。多くの人が集まり交流とチャレンジが生まれる「シェアキッチン」や「イベントスペース」など、多様な機能が複合された施設として、多くの方が利用しています。

そして2024年。コロナ前の日常を取り戻しつつある中で、新たにリニューアルされることになりました。誕生以来掲げている「チャレンジを応援する拠点」というベースは維持したまま、「人生を豊かにする場所」という新コンセプトを掲げ「環境を豊かに」「心身を豊かに」「つながりを豊かに」する施設・サービスのアップデートを予定しています。ぜひ新たなco-enにご期待ください!

co-en Beer&Cafe Engi

茨城県つくば市吾妻1-10-1 つくばセンタービル1F(つくば駅から徒歩約3分)

 

ゲストスピーカー

 山下 正太郎 氏

(WORKSIGHT 編集長/コクヨ ヨコク研究所・ワークスタイル研究所 所長)
2011年『WORKSIGHT』創刊。同年、未来の働き方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.」(現ワークスタイル研究所)を立ち上げる。2022年、未来社会のオルタナティブを研究/実践するリサーチ&デザインラボ「ヨコク研究所」を設立。

 岡村 英司 氏

(三井不動産株式会社 ビルディング本部 ワークスタイル推進部ワークスタイルデザイングループ グループ長)
2001年に三井不動産に入社し、オフィス営業を経て、三井デザインテック㈱ワークスタイル戦略室にてオフィスを活用した働き方改革のコンサルティング業務に従事し、これまでに刷新したオフィスは約30社5万坪。人的資本経営・Well-beingをテーマに、日本企業の働き方を変えたいという想いで、オフィスを使った働き方改革のコンサルティング事業を立ち上げ、推進。

 安里 喬泰郎 氏

(株式会社ATOMica 執行役員CPO)
1994年沖縄生まれ、筑波大学卒業。心理学を学んだのち、新卒で東急エージェンシーに入社。PRプランナーとして4年間、商業施設からエンタメ業界、流通メーカーまでさまざまな業界のクライアントを担当。その後、東急株式会社の広報に1年間出向したのち、2022年4月ATOMicaに入社。

 内山 博文

(つくばまちなかデザイン株式会社 代表取締役)
不動産デベロッパー、(株)都市デザインシステム(現UDS(株))を経て、2005年に(株)リビタの代表取締役、2009年に同社常務取締役兼事業統括本部長に就任。2016年に不動産・建築の経営や新規事業のコンサルティングを主に行うu.company(株)を設立し独立。同年に不動産ストック活用をトータルでマネジメントするJapan.asset management(株)設立。2019年より(株)エヌ・シー・エヌの社外取締役。2021年よりつくばの街の再構築を目指す、つくばまちなかデザイン(株)の代表取締役に就任。

司会・進行

武田 真梨子(つくばまちなかデザイン株式会社 )

 

【ゲストによる活動・事例のプレゼンテーション】

人生を豊かにする [働く場所 ] [働き方]とは?

近年、社会情勢や技術の発展から、オフィスに限らずどこでも仕事が行える環境になりました。働き方やその環境が多様化する今、思考をどのようにアップデートすればよいのでしょうか?前半は3名のゲストから、そのヒントをお話しいただきました。

 

「生活と仕事」が一体化する、新しいワークプレイスへの移行。

山下 正太郎 氏(WORKSIGHT 編集長/コクヨ ヨコク研究所・ワークスタイル研究所 所長)

はじめに、ワークプレイス研究の第一人者・コクヨ株式会社の山下氏が登場。冒頭に「コロナが終焉した今、日本の働き方や仕事への考え方が、欧米寄りになってきている」と述べました。

変化のひとつが、ジョブ型への移行です。これまでの空気や雰囲気で管理されていたハイコンテクストな仕事から、ルールや目標が明確な「ローコンテクストな仕事」へと仕事の質が変化するに伴い、出社の必要性が減少し、オフィスの役割は「互いの近況や空気を読む」ための限定的な役割・機能にシフトしていくと述べ、と欧米の例を紹介しました。

さらに山下氏は、働き方の変化により「自宅やその周辺に、仕事や生活のコミュニティを再建できないか?」と多くの人が考え始めたと指摘し、生活と仕事が一体化した「郊外型のコワーキング」の例として、「働く・学ぶ・暮らす」を自宅から15分以内で完結させるパリの都市改造「フィフティーンミニットシティ」について紹介し、プレゼンテーションを終えました。

 

リアルの場を通じた「働きがい」の創出がより重要に。

岡村 英司 氏(三井不動産株式会社 ビルディング本部 ワークスタイル推進部ワークスタイルデザイングループ グループ長)

続いて、働き方改革のコンサルティング事業を推進する、三井不動産株式会社の岡村氏が登場。コロナを経て、リモートワークが普及した今、従業員の「働きやすさ」は改善されつつありますが、今後「働きがい」というキーワードが非常に重要になると語ります。

日本の人事部の多くは「物理的な待遇」や「能力開発・研修」へ取り組む機能はあるものの「つながり・連帯」や「意識・パーパス」の向上を担う機能がなく、推進が難しい、と指摘。欧米のコミュニティマネージャーによる社員同士の「つながり」をつくり、さらには自分たちの存在意義の共有、といった取り組み、つまりは「働きがい」が大事になってくるのではないか?と話します。

そして「働きがい」を作る上で「リアルの場」が大きな価値を発揮すると解説。最後に「社内外のつながりや連帯を作って、働きがいを上げることが、今のオフィスや シェアオフィス・コワーキングに求められるあり方である」と述べました。

 

「場+コミュニティマネージャー」が人と人を結びつける。

安里 喬泰郎 氏(株式会社ATOMica 執行役員CPO)

最後に、コワーキングスペースの運営・開発を軸に、コミュニティ作りや地域の活性化を手がける、株式会社ATOMica 安里氏が登場。全国35拠点の施設から、大学内のコワーキングスペースなど先進的な事例を紹介しました。各施設のゴールや課題から逆算し、 どうしたらその課題が解決できるかを考えながら場作りをしていると話します。

但し「場所」があり「人」がいても、それだけでコミュニティを活性化させることは難しく、つながりを生むには「コミュニティマネージャー」の存在が必要不可欠であると安里氏は語ります。 

日々の会話を通して潜在的な課題感を汲み取り、バトンを渡すことが、コミュニティマネージャーのあるべき姿と述べ、ATOMicaのコミュニティマネージャーの運営方法や具体的なプログラムを紹介し、プレゼンテーションを締めくくりました。

 

【トークセッション】

後半は、3名のゲストとモデレーター内山によるトークセッションを行い、それぞれの立場から見解を語り合いました。

ーー日本人の「働き方」に対する価値観は、ここ数年で、どのように変化したのでしょうか?

山下氏:コロナ以前から政府主導の働き方改革が進められていたものの、日本人の場合「人生=仕事」という価値観が根強く、残業を減らしても、単なる空白の時間が生まれるだけでした。しかし、今回のコロナを機に、自宅で長い時間を過ごすことで、人生を豊かにする働き方・生き方を見つめ直した人が多かったのではないでしょうか。近年は自分の情熱を傾けられることを仕事にしていこうという「パッション・エコノミー」のムーブメントも高まり、さらに経団連も積極的に副業等を後押しし始めています。働き方の意識は、外側・内側の両面から、今までの常識だった一社だけで勤め上げる「終身雇用」から変わってきていると感じますね。

 

岡村氏:人それぞれ価値観が違うのは当たり前。抑圧された働き方から解放されてみんな本来の姿になり、人それぞれの価値観で動けるようになったのだと思っています。こうした多様化の時代において、企業経営に求められるのは「対話」です。この人はどういう人なんだろう?と、時間をかけて理解すること。そして、つながりを作る一つの鍵は「会社の存在意義・パーパス」を、いかに社員と共有できるか、ではないでしょうか。

 

ーーリモートでも仕事ができる環境が整った今、「オフィスに人があつまるメリット」は何だと思われますか?

岡村氏:カルチャーの伝播や仲間意識の醸成にあると思います。リモートワークと違い、オフィスに出社して、周りのやりとりを見たり、聞いたり、雰囲気を感じたりするうちに「こういう会社なんだ」とわかる。

 

山下氏:リアルのメリットのひとつに「ちょっといいですか?」のように、予めセットされていない突発的なコミュニケーションのしやすさがあると思います。リモートの場合、チャットで「すみません、ちょっといいでしょうか?」とメッセージを送ることもできますが、オフィスで横にいる先輩に手を挙げてすぐに聞ける環境と比較すると、ハードルが全く違います。また、これまではオフィスでの雑談も「偶然の出会い」が生まれる重要な時間になっていましたが、出社のタイミングが各自バラバラの中で「偶然の出会い」に期待するのは、効率が悪い。従来のような「偶然の出会い」を起こすには、全員が同じタイミングで出社するか、デジタルの空間の中に再現するか?これは企業が検討すべき点かと思いますね。

 

ーーなぜ今「郊外型コワーキングスペース」が求められているのでしょう?

安里氏: オフィスに毎日通わなくても済む、新しい「生産的な拠点」が自宅の周りに必要とされていると感じますね。最近は「働く場にライフの要素を入れて、ライフの場にも働く要素を入れる」という考え方に変化しつつあります。郊外型のワークスペースは「暮らしの中に溶け込んでいる」という点が特徴的。都心とは違い、間口が広いので、ちょっとした「ゆるさ」があります。休日におじいちゃんが新聞を読んでいる横で、学生3人が起業している。そしておじいちゃんとの会話を機に、学生達に新たな気づきがもたらされるような、新しい形のコミュニティですね。さまざまな「出会い」があるのが、オフィスとも自宅とも違う、コワーキングならではの良さだと感じます。

 

山下氏:そこに加えて言うなら、「郊外は土地が安い」こともやはりメリットですよね。例えば、意欲ある若者が良いアイデアを思いついて、ビジネスをやろうと思っても、都心は土地が高くて借りられない。それでもやっぱり挑戦したいと思っている人は、郊外の古民家を購入して、お店を展開したりしています。ECやリモートワークもさらに浸透している状況も相まって、フィジカルな実験やチャレンジ・トライアルをハイブリッドで気軽にできる点が、郊外型の魅力だと思います。

 

岡村氏:私は昨年、スペインとポルトガルでコワーキングを巡りをしたのですが、 コワーキングというより「コリビング」に近い印象を持ちました。公民館に近所の人が集まる。ひと昔前は、寺社仏閣が近所の人たちの憩いの場だったと聞きます。そのような印象でした。協力しあって働くこと、だけではなく、協力しあって暮らすこと(物理的ではなく)を含めた役割が、郊外型コワーキングなのかなと感じますね。また、関連した話で、予防医学研究者の石川善樹さんは「今のオフィスが参考にすべきは、縄文時代」と面白い表現をしています。縄文時代は狩りに出て、集落に戻る、いわゆるリモートワークをやっていた、と。集落の機能は何かというと、お墓とお祭り。お墓は歴史を感じさせるもの、お祭りはイベント。未来に向かって生きている人々が「過去から今と未来につなぐ大切な場」であり、連帯をはかる場。そういった機能が、人が集まる場には求められる、と思います。

 

ーー深みのあるお話をありがとうございます。それでは最後に一言ずつ、メッセージをお願いできますか?

山下氏:コロナが終焉し、日本はまたオフィスに戻りつつあるように見えますが、co-enのような「新しいワークスペース」から、新しい考え方・生き方が生まれていってほしいと感じています。自分たちの意思を強く持って行動し、次の時代・未来を変えていきましょう。本日のイベントがそのきっかけになれば幸いです。

 

岡村氏:近年は、AIなどの技術発展が目覚ましく、、そういった技術が発展すればするほど、相対する話で、「自分は何のために生きているのか?」など人生の意義やウェル・ビーイングを見つめるきっかけにもなっているかと思います。人生は1度きり。「ウェル・ビーイングを考えながら、今を生きる」ということを私自身も大切にしていきたいと思っています。

 

安里氏:私は最近、つくばに移住してきたのですが、つくばは「人生を豊かにする働く場所・働き方」にぴったりの場所だと感じています。今後も働き方や働く場所にとらわれない「幸せな生き方」を、つくばの皆さんと作っていきたいと思いますし、全国にもそうした場を展開していきたいと考えています。

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。新たにリニューアルする「co-en」も、働く場所として暮らしの場所として、より良い空間になるように色々と仕掛けていきたいと、我々自身も気が引き締まりました。つくばまちなかデザイン株式会社は、今後も「働く場所」や「コワーキングプレイス」などの在り方について、引き続き、情報を発信してまいります。どうぞご期待ください!