news
ニュース

ようこそ、野生酵母の世界へ —『AnotherWorld』イベントレポート

研究者、技術者、アーティスト、クリエイターといった各分野のプロフェッショナルたちと一緒に、好奇心・探究心を解放しながらソウゾウ(想像・創造)を行っていく体験型イベント『Another World』。

8月6日(日)のイベントでは、樹液などに生息している野生酵母について、理化学研究所 バイオリソース研究センターの遠藤力也さんと一緒に顕微鏡を用いて観察を行いました。本記事では、その時の様子をレポートします。

イベント概要
目には見えない小さな生き物「酵母」。理化学研究所 バイオリソースセンターで研究員をしている遠藤力也さんは、まだまだ自然界に生息している野生の酵母(野良酵母)を研究しています。
本イベントでは、遠藤さんを招き可能性に満ちた「野生酵母」の魅力についてお話をいただきながら、後半では、遠藤さんのレクチャーのもと、樹液から酵母を培養する実験を行いながら研究体験をしました。

 

ーTEXT 武田真梨子

 

 

机に並ぶ、見慣れぬ道具

よく晴れた日曜日。時間になると参加者たちが続々とイベントスペースに集まります。机の上にはシャーレやチューブなど見慣れない道具の数々。遠藤さんの横には大きな顕微鏡もあり、観察への期待も高まります。

 

 

参加者が揃ったところで、いよいよイベントスタートです。オリエンテーションの後、遠藤さんから、今回の主役である「酵母」についてお話をいただきました。

酵母は私たち人間との付き合いが長い微生物で、パンやお酒といった「発酵食品」を生み出す立役者でもあります。私たちの暮らしにもはやなくてはならない酵母の存在。でもまだまだわかっていないことも多くあるそうです。

現在、酵母にはいくつもの種類が確認され、それぞれの役割も違うということが徐々にわかってきていると遠藤さん。所属しているバイオリソースセンターでは、酵母に備わっている機能を解明したり、未知なる酵母を探して分析したり、日々酵母の最前線を切り拓いています。

 

いよいよ『野良酵母』の未知なる世界へ

普段は見えない小さな生き物酵母も顕微鏡を使うと観察することができます。野生の酵母は、樹液や花の蜜など糖のあるところに生息している可能性が高いとのこと。今回は事前につくば市内のクヌギの木から樹液を採取して、観察に使用します。

 

 

イベントのあった週は、樹液も干上がるほど雨量が少なく、なんとか樹液の出ている木を発見…!ジュクジュク、シュワシュワしている樹液がベストではありますが、今回は写真のような樹液の他に2箇所で採取した樹液を観察します。

まずは、自分の感覚(センサー)を使って、匂いや色などを観察していきます。
「甘酸っぱい匂いがする..!」
「こっちは白い色だけど、こっちはちょっと黄色っぽい」
はじめて嗅いだ匂いや見た目に、新鮮な感想が飛び交います。

顕微鏡を通して、野良酵母とご対面

普段は見えない小さな生き物酵母も、顕微鏡を使うと観察することができます。肉眼では見えない世界でも、顕微鏡を使って倍率400に拡大して覗いていきます。

 

 

丸いつぶつぶが、いっぱい…!樹液の中には、写真のような小さな粒がひしめきあっています。これが、野生の酵母です。周りにはもっと小さな微生物たちも動いています。楊枝の先にチョンと樹液をつけただけでも、そこには何万、何億個もの酵母がいるとのことです。

酵母を培養してみよう

小さすぎて肉眼では見えない酵母。でも、たくさん集まると目で見ることができるようになります。コロニーと呼ばれる酵母の集合体になると、酵母は白い塊として目視することができます。

後半では、培地と呼ばれる酵母が増えやすい環境を用意し、そこに野生の酵母を綿棒につけて線を描いていきます。

 

 

真剣に、思い思いの線を培地に描く参加者。

 

 

今は透明に見えても、数時間後には酵母が増えて、白い線として出現してくれることでしょう…!

 

 

培地を作ったところで、イベントは終了。ここから数時間後の様子は、また後日のお楽しみ。

 

『のらこうぼアート展』開催

8月7日〜10日にかけて、co-enの通路側に面したギャラリー「co-wall」に当日のシャーレが展示されました。

 

 

イベントから1日後。透明だった培地の線の上に、酵母が増えて白い線が浮かび上がっています。

 

 

思い入れのある「31作品」が、 co-wall に並びます。

 

酵母は生きているので、時間の経過とともに酵母はどんどん増殖します。シャーレの上は日に日に真っ白になり、作品も時間とともにその様子が変化していきます。

本展示は、たった3日間という短い会期ではありましたが、野生の酵母への世界を覗くきっかけとなってくれたら嬉しいです。

 


 

ゲストプロフィール

遠藤 力也(えんどう りきや)
理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室 研究員

1982年、東京都生まれ。博士(農学)。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員PD(森林総合研究所森林微生物研究領域)を経て、2012年より微生物材料開発室にて酵母類の菌株担当。